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No.4 「情報は足で稼げ」~人と人の出会いで紡ぐ新規就農への道~

 

第4回目のレポートは、新規就農を目的に福島県より移住された松崎さんにお話しを伺いました。

松崎さん写真1

移住のきっかけは?

福島県で地方公務員を17年ほど勤めていたという松崎さん。以前から定年後は、農業をしたいと考えていました。そんな中、2011年に福島県福島市で東日本大震災に遭い、その後も2年ほど福島市内に住んでいましたが、放射線量がなかなか下がらなかったことなどから、子どもの安全安心を何より第一に考え、のびのびと教育できる環境で暮らしたいと移住を決意しました。

震災後の自主避難者に対する住宅支援は、市町村ごとに行われていましたが、松崎さんはその締め切り間近まで避難するかどうか悩んでいました。福島県境に近い米沢市などは、震災から1年~1年半くらいで受け入れが埋まっていましたが、酒田市と鶴岡市は、まだ自主避難の受け入れを行っていました。まず庄内を知るために農家民宿に滞在しながら、実際に農家の人の話を聞くことからはじめました。鶴岡市櫛引地域にある※「知憩軒(ちけいけん)」に、4~5回訪れるなかで、女将である長南光さんから懇切丁寧にいろいろと教えていただいたことが鶴岡に移住しようと思ったきっかけになったようです。「縁もゆかりもなく、知人も何のツテもないなか来ましたが、長南さんが親切にあちらこちらへ連れていってくれたんです。羽黒山神社へ行ったり、農業をしている人たちに顔合わせしてくれたり、色々な方を紹介してくれました。」と松崎さんは言います。
※ 知憩軒 農家民宿・農家レストラン併設  鶴岡市西荒屋字宮ノ根91

松崎さん写真2

実際に住む場所探しは、鶴岡市の建築課に自主避難者用の物件リストがあり、いくつか不動産業者を介して紹介してもらい、見つけたのが駅からほど近いアパートでした。2012年の夏休みを利用して手続きを進め、最終的には2012年の11月に決めました。

 雪に対する不安はありませんでしたか?

福島市はあまり雪が降らないのですが、市内の山間地に行けば、雪深いところもあるので、雪に関しての心配はあまりありませんでした。庄内の雪は全然経験していませんでしたが、なんとかなるかなぁと思っていました。

新規就農するにあたり利用したものはありますか?

まず1年目は、農の雇用制度で、市内の農業法人で研修させてもらいました。その後は、自分の思い描く有機農業に取り組みたいという気持ちから、2年目は青年就農給付金経営開始型を申請しながら、独立自営就農に挑みました。アパートから18キロある羽黒町桜ヶ丘の山間に約1haの農地を借りてトマトの栽培等を始めました。ところが通勤に30分もかかり、最初の1、2か月は何とかなるだろうと思っていたのですが、毎日通うとなるとやはり大変でした。
農地はある程度、自宅から近い方がいいと痛感した松崎さん、家と農地がある程度近い物件がないか、不動産屋さんをはじめ、インターネットやつるおかランド・バンクが運営する「空き家バンク」も活用しながら、鶴岡市内だけではなくて、酒田市、遊佐町、庄内町も含め庄内一円で探したそうです。

松崎さん写真4

新規就農者間での交流する機会はありますか?

偶然、人づてに羽黒地区で新規就農された方を知りました。実は冬の間、青こごみの促成栽培をハウスで一緒にやらせていただきました。その方に色々話を伺ってみたところ、農業大学校を勧められました。農業大学校に通学しながらですと、農耕用の大型特殊、けん引の免許取得や、農業機械のメンテナンスの講座等があり、さらに小型車両系建設機械や溶接関係の資格取得などに関していろいろと安く取得できるというメリットがあるということです。今年の4月に入学し、実際通って講義を受講してみると大変勉強になるので、最初から行っておけばよかったと感じています。

松崎さん写真5

インタビューの取材に伺った際に、ちょうど新規就農アドバイザーの百瀬さんが松崎さんの畑を訪れていました。実際に圃場に出て、作物の状態を見てアドバイスをいただいたり、その他にもいろいろな相談にのっておられました。「土着の人間ばかりだとプラス思考にならない。自分の地域は良いところが何もないとか、つまらないとか、マイナス思考になりがちです。その点、他から来た人たちはいい所を見つけるのが上手なんです。また農業は集落単位なので、お互いに助けたり助けられたりギブアンドテイクでやっていかなくてはならない。松崎さんは非常に穏やかで人間的にも良い方なので、うまくやっていけると思います。」と百瀬さんも太鼓判。

松崎さん写真6

移住の際に「これだけはやっておいたほうがいい」こと

まずは、移住に向けてお金を貯めておいた方がいいです。農業だけで生活を始めてしまったので、現在、青年就農給付金を受給しながらなんとか食い繋いでいますが、やはり軌道にのるまでは大変だということを身を持って感じています。
去年はほとんど鍬一本、鎌一本でやっていました。鍬一本でも大丈夫だろうと思っていたのですが、給付金は主要な機械・施設を給付対象者が所有又は借りていないと受給できなかったのです。トラクターは賃貸借契約を結んで借りていましたが、使う時期は重なるので、借りるということは大変難しいことが分かりました。ある程度の機械は自前で用意しないと、適期に耕起したり除草したりするタイミングを逃してしまうことを痛感しています。

行者にんにく2 松崎さん写真7

移住の際に困ったことはありましたか

空き家、農地探し。庄内地方では、酒田、遊佐、鶴岡、どの地域もいろいろな移住の支援があり、いろいろ見て検討しました。しかし、短期間で、就農しながら土地も探すのは難しいと思います。地域おこし協力隊の皆さんのように、そこで暮らし、人間関係をつくり、情報を得ながら馴染んでいくパターンならいいのですが、突然そこへ行って農地や家を紹介してくれとか、空き家ツアーなどに参加して、ここが空いているとか紹介されても、実際にはなかなか難しいと感じました。
最初にその集落のことを知らないと、「農業やりたい」と周りの人に話してもなかなか受け入れられないと感じました。ある程度長い期間、その場所に通い、いろいろな人と顔をつないでもらったりしながら定住を狙うのがいいと思います。

松崎さん写真8

実際に移住してみて感じたこと、今の仕事のやりがいや暮らしなど。

松ヶ岡集落に入るにあたり、事前に松ヶ岡開墾場の理事長、副理事長にお会いする機会をもうけていただきました。そのおかげで、昔からのしきたりや町内会費などのことも事前に知ることができました。ただ、転入したばかりで、まだ集落に馴染んでいませんので、受け入れていただけるように、集落行事にはできるだけ参加するようにしています。
今年は30種類くらいの野菜を育てながら、有機野菜の宅配と山菜の促成栽培に挑戦していきます。
有機栽培を続けながら、子どもたちに安心して食べさせられる身体に良いものを作っていきたいです。
そして、エネルギーの供給という面から原発に依存しないエネルギーの自給自足も目指したい。庄内には、薪人サミット、太陽光、風力発電など手がけている人たちがいらっしゃるそうなので、教えを受けながらエネルギーも自給できたらいいなと思っています。

松崎さん写真9

移住を考えている人へのアドバイス

「情報は足で稼げ」とよく言いますが、いろいろな場所に実際に顔をだして、いろいろな人と繋がりながら、あらゆる可能性を模索すべきだと思います。人間関係を固定してしまうと世界が狭くなるので、人との出会い、そして繋がり方も一方向ではなく、いろいろな方向に繋がりながら自分なりの可能性を広げていくのがいいのではないかと考えています。

 

(平成27年5月15日取材 文・写真 俵谷敦子)

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