夢の新素材「人工合成クモ糸」の開発で今や全国的にも知られるSpiber株式会社にUターン就職した冨樫修さんにお話しを伺いました。
2015年5月に鶴岡市覚岸寺に完成したばかりのSpiber本社を訪れました。10月末に12年ぶりに鶴岡にUターンしたばかりの冨樫修さん。高校卒業後、茨城の大学へ進学。その後、全国展開するアウトドアショップに就職。数店舗での勤務の後、都内の大型店舗で副店長を経験されました。
冨樫さんには二人のお兄さんがいるそうですが、二人とも鶴岡に残らなかったこともあり、大学生の頃から「いつかは鶴岡に戻って仕事がしたい」と思っていたそう。
アウトドアショップに勤めようと思った理由は?
小さい時から、父親に連れられ釣りにでかけていたという冨樫さん。「湖や渓流、海でのルアーフィッシングをはじめ、どのジャンルの釣りも大好きで、趣味が高じてアウトドアショップに就職しました。自分はフィッシング担当希望でしたが、実際には登山用品担当になり、それから山登りも始めました。北アルプス、八ヶ岳などいろんな山に行くようになって、中でも富士山には6回も登りました。でも実は鳥海山や月山には途中まで登りましたが、まだ登頂していないんですよ。ショップ勤務時代には登山だけではなく、キャンプやカヌーなど釣り以外のアウトドアの楽しみをたくさん知ることができました。」
鶴岡に帰ろうと思いはじめたきっかけは?
「アウトドア関連の仕事だったこともあり、遊びと仕事がいつも繋がっていました。お客様や上司、同僚にも恵まれ、忙しくも本当に充実した日々でした。しかし、転勤が多く、その度に大好きなフィールドに行きにくくなったり、せっかく知り合えたお客さまとも離れなければならなかったのが残念な部分でした。そういうことからも、地元に帰ってじっくり仕事も趣味も取り組みたいと思い始めました。アウトドア好きには鶴岡はパラダイスですからね!山も海も渓流も近い恵まれた環境にあることを、離れてみて再認識しました。実はウインタースポーツは、今まで全然やってこなかったのですが、昨年からスノーボードを始めました。鶴岡にいるとスキー場まで40分で行けるというのも東京にいたのでは考えられないことです。」
Uターンしてどんな仕事に就きたいと考えましたか?
「帰りたいという気持ちがまず一番です。その次に仕事をどうするか。多くの方は、前職と似たもの、もしくはその経験を活かせる仕事をしたいと考えると思うのですが、都会に比べると地方では、職種が限られるため、選べないのがネックだと思います。自分は、前の仕事をやりきったという感じがあったので、同じ職種に対する未練はありませんでした。職種は違っても、今まで培ってきたものを活かせる仕事に就きたいと思いました。」
市役所の移住相談窓口に相談し、鶴岡ワークサポートルーム(以下WSR)に登録したのが3月初旬。それからWSRの担当の齋藤さんから4、5月にメールで情報をもらっておりましたが、春から副店長になったこともあり、しばらくの間は自分から積極的に仕事を探すことはできなかったそうです。
具体的なアクションにつながったきっかけは?
「本格的に転職を考えたときに高校の同級生がSpiberに勤めていたこともあり、真っ先にSpiberのことを調べました。具体的にどんな研究をしているのかは知らなかったのですが『人工合成クモ糸』をつくっているらしいということだけは知っていました。ホームページを見て調べてみると、5月末に都内で採用説明会があることを知り、まずは行ってみようと思いました。」
Spiber社の採用説明会に参加してみて、『この会社で働きたい!』という強い気持ちが固まったそう。「『人工合成クモ糸』は石油に依存しない新世代の素材だということもありますが、自分が一番感銘を受けたのは、この素材が製造の段階から環境への負荷が少なくて、タンパク質由来のため万が一放置されても時間をかけて自然にもどっていく素材であるということ。これまでアウトドアの仕事をしてきて、フィールドに放置されたビニールゴミや釣糸、浜辺の漂着物などをみていると、みんな自然が好きで来ているはずなのに、かえって環境に負荷を与えている点に矛盾を感じていました。もちろんそれぞれのマナーという問題もあるのですが、何か解決策はないかと漠然と考えていました。
『人工合成クモ糸』という夢の素材の存在。それを研究している会社が地元である鶴岡にあること。さらに、弊社代表の関山から創業当時の話や、「会社は社会のためにある」という理念に基づいた理念の説明を聞き胸が熱くなりました。こんな会社がこの鶴岡にあるなんて!これまでの経験を活かせるかどうか、わからない不安もありましたが、関山の話を聞き終わった時点で直感的にこの会社で働きたい!と感じました。説明会の後、すぐに履歴書や自己PRをメールで送りました。」
帰ってくるときにこれだけはやっておいたほうがいいことは?
「私の場合、転職に関してはいろいろとタイミングがよかったように思います。転職したいという気持ちが強くなっていましたが、それまでの仕事もしっかりとこなしたいと思って働いていましたので、転職活動に費やす時間はあまりありませんでした。『仕事が嫌になったから転職したい』という話をよく聞きますが、気持ち的にぐっと下がった状態で転職活動をするのはよくないと思っています。自分は、それまでの仕事をやりきったというところがあったので、辞めることに迷いはありませんでした。その状態で、今の会社に巡りあえた点が幸運だったと思います。」
今後の暮らしのイメージについえ教えてもらえますか?
「趣味の部分では思う存分楽しめるかなと期待しています。東京に住んでいると、どこに行くにもアクセスに時間がかかってしまい、アウトドアの仕事をしていてもなかなか楽しめなかったので、これからいろいろなことを楽しみたいと思います。一度離れてみて、改めて鶴岡の良さを実感しています。赤川にはサクラマスを釣りに全国から釣り人が来るんですよ。東京にいたとき、釣りをするお客様に『私、鶴岡出身なんです』というと『赤川近いですか?』と聞かれたものです。さまざまなアウトドアを体験してきましたが、鶴岡はいいところだと本当に思います。」
「一方仕事の面では、まだ勤めたばかりでわからない部分も多いですが、何事にも使命感をもって取り組んで行きたいです。今後どういう場面で、自分が今まで経験してきたことを活かせるか不安な反面楽しみでもあります。いろいろな人と話すというのは前の仕事では当たり前のこと。今の職場は海外からの研究者もどんどん増えていて英語しか話せない人たちともどんどんコミュニケーションをとっていきたいです。会社の成果として形になるものはもちろん素晴らしいのですが、その過程にいる研究者の方がいかに快適に効率的に研究できるのかがとても重要だと思います。そうした部分で貢献していければと、今は感じています。自分が経験してきたことを少しでも活かして、Spiber社の発展に係わっていきたいですね。」
会社説明会の際に関山社長から「今までの人生を振り返ったときに『自分は人生を楽しんできたな』という人がいい」という話を聞いたとき、「自分なら胸を張ってそう言える」と冨樫さんは思ったそうです。これからの冨樫さんの鶴岡での暮らしもどんどん楽しみが広がっていくことでしょう。
(平成27年11月25日インタビュー 写真・文 俵谷敦子)
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