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NO.54 「地域留学」で見つけた、自分なりの地方との関わり方。

鶴岡市に移住した人々の暮らしを、体験談とともに紹介する移住インタビュー。
今回は、東京大学を休学し「地域留学」として温海地域で1年間を過ごした伊藤さんにお話を伺いました。

プロフィール

東京大学教養学部学際科学科4年生。神奈川県横浜市出身。

2021年度に実施された東京大学フィールドスタディー型政策協働プログラム(以下「東大FS」)に参加し、「(特に都市在住の若者が)関係人口になるきっかけづくり・土壌づくり」をテーマに鶴岡市温海地域で活動。東大FSの活動や、かねてからの地方への関心からその後大学を休学し、2022年1月から、2023年3月まで温海地域で暮らす。

東大FSの1泊2日の現地活動後、大学を休学して温海地域へ。
幼少期の経験がきっかけになった、“関係人口”としての地域との関わり。

Q伊藤さんの専攻と、地域のことに関心を持たれたきっかけを教えてください。

伊藤さん

大学では、教養学部で地理学を専攻しています。国全体の経済というよりも、特定の地域内での経済にフォーカスして、複数の観点から一つの事象を分析しています。

地域に関心をもったきっかけは、幼稚園に入るまでの時期に、母の故郷である新潟県柏崎市と、実家の神奈川県横浜市の両方の地域で過ごしていたことです。その経験が、“地方では土地は余っているのに人が減っていて、都会では人はいるのに土地が足りない”というアンバランスさに対する、違和感に繋がっていきました。

また年を重ねるにつれ、 “地方から人がどんどん出ていくのはなぜなんだろう ”と考えるようになりました。学校やニュースを通じて様々なことを学ぶうちに、仕事やお金を稼ぐ仕組みが十分にないと、その場所が好きでも住めないのだなと感じることが増えていきました。だから自分にとって大事な場所を未来に繋ぐためには、経済の事を知らないといけないのではないかと思い、今の学部に進みました

柏崎市の風景
鶴岡に来る前の伊藤さん

Q温海地域に住むようになったきっかけは?

伊藤さん

こうした想いもあり、2021年に地域をフィールドに1年間かけて勉強するプログラム”東大FS”に応募しました。温海地域には僕を含めて5人がお世話になりましたが、コロナ禍のためオンラインでの活動が中心となり、初めて現地を訪れたのは11月でした。その1泊2日の現地活動で改めて“自分は田舎について何も知らない”という思いが強くなりました。

僕は幼い頃柏崎にいましたが、腰を据えて生活していた訳ではありません。だから実際に一度田舎に住んでみて、“自分は今後田舎とどう関わりたいか”、そしてそのうえで“都会で何をしたいのか”を自分の言葉で語れるようになりたいと思ったんです。当時僕は東京で就職活動中でしたが、全ての選考を辞退して、大学を1年休学し、温海地域に暮らすことに決めました。

Q伊藤さんが感じた、温海地域の魅力とは?

伊藤さん

実際に来てみて、1番驚いたことは“食の多様性”です。どの時期にも美味しいものがあり、旬の食材を追うのが大変だと感じたほどです。お魚やお米だけでなく、温海地域に伝わる“在来作物”の温海かぶなどを地域の方からいただくこともありました。

旬のもの以外にも食べ物でいえば、あつみ温泉の中華料理屋さんのチャーハンが絶品で。ちょっと甘くて、お店のお母さんやお父さん、お兄さんと話すのもセットで大好きな味になりました。広い意味で、食の豊かさは魅力のひとつだと思います。

地域の方からいただいた海の幸、左は幻のエビともいわれる「ガサエビ」。

温海地域で生活している方と同じ目線で景色を眺め、同じ物を食べるという、観光者とは違う形で地域に入っていったことで、地域の恵みを五感で感じることが多々ありました。例えば“景色の画素数の高さ”は、暮らしているからこそじっくり味わえる良さだと思います。

「温海かぶ」の菜の花畑
夕暮れ時の温海地域

地域活動と仕事を両立しながら、駆け抜けた1年間——。
トライアンドエラーを重ね、得た気づきとは?

温海地域では、どんな活動を?

伊藤さん

温海地域に暮らして、積極的に地元の方々と関わりました。あつみ温泉の未来をつくる会『アツクル』の会議への参加や、2018年から始まった担ぎ手にお湯をかける『お湯輿まつり』でお神輿を担ぐなど、たくさんの方々と実際に話す機会をつくりました。

また、参加費が年間1,000円の『畑らいふ』を利用して、農家さんのご指導を受けながら野菜づくりに挑戦しました。夏野菜がたくさん収穫できたので、横浜の両親にも送りました。

法被姿でお神輿を担ぐ伊藤さん

収穫した夏野菜

2022年の8月に山形大学の学生と一緒に鼠ヶ関でsea side café ユースポートの運営を始めました。名前の由来は、鼠ヶ関が港ということから、“若者が地域に入る入口、港”のような場所になってほしいという思いから名付けました。
飲み物とかき氷の提供から営業をスタートして、11月に行った『海と日本プロジェクトin山形』が主催する海と灯台ウィークでは、あつみ温泉にある足湯カフェ『チットモッシェ』さん監修のもと、鼠ヶ関灯台をイメージした灯台パフェを販売しました。

こちらがお店の入り口、今後はフードメニューを増やす予定だそう。
光るコースターに照らされた「灯台パフェ」

仕事は、庄内を拠点とする合同会社danoの代表を務める伊藤大貴(ひろたか)さんにお誘いいただき、各種データ分析や、Web 広告運用、キャンペーン企画などを担当しています。日々クライアントさんとデータを見ながら結果を解釈し、 新しい施策を打ってくイメージです。温海地域での活動と、合同会社danoでの活動を両立できる形を探しながら関わってきました。

danoメンバーと和気あいあい、仕事をされています

Q今後“関係人口”として、地域との関わりを考えている人に伝えたいことは

伊藤さん

“自分に何が出来るか”を考えるためには、まずは地域のことを知ることから始めるべきだと思いました。僕も暮らし始めた当初はカルチャーショックを受け、疑問に思ったこともたくさんありましたが、段々と ”できない事情 ”や”そうせざるを得ない事情 ”が見えてくるようになりました。

“関係人口“として地域に入り込むと、地域の良いところも感じつつ、自分の意見を言いたくなってしまう瞬間もあると思います。でもその時、自分の価値観の押し付けになっていないか考える必要があります。価値観を押し付ける前に、まず 域の考えを知り、リスペクトする姿勢が大事だと思っています。

屋根の雪下ろしを体験
春には山菜収穫、地域のおばあちゃんから可愛がられています。

僕は休学をして温海地域に住んでいますが、こうしたいわば“地域留学”は、海外への留学等と違って、言語の上達や異文化交流といった目に見える形での成果が出てきにくいと思います。

今後地域と関わりたいと思っている学生の方に伝えたいのは、 “短期間で無理に何かを成し遂げようとしなくていい”ということです。学生の活動が短期間になってしまうのは仕方ないことだと思いますが、短期間で何かをしようと思っても、自分も苦しいし、地域としてもなかなか先にも繋がらないから、嬉しくないと思うんです。ですから僕は、学生がゆっくりと時間をかけて地域と関わる機会を作れたらいいなと思っています。

そんな思いで『sea side café ユースポート』に関わる大学生は、なるべく2年生に声をかけています。そうすれば、2年半関わることができるので、その分色々な会話を交わすことができますし、トライアンドエラーを何回もできると思うんです。

山形大学のボードゲームサークルと、イベントを開催。

やっぱり自分には田舎にいる時間が必要だ。そう思えた「地方留学」。

Q今後の予定を教えてください。

3月いっぱいで横浜に戻り、復学します。これからも祭りの神輿担ぎ等に参加するため、定期的に帰ってきたいと思います

これまで僕は田舎に対して、”知らない世界に対する漠然としたワクワク感”のようなものを感じていました。
もともと僕は競争心の強い性格で、何かを成し遂げたい気持ちから、立ち止まっているのが苦手なタイプです。だからこそ、温海地域のゆっくりとして丁寧な 時の流れや、過去から引き継いだものを未来へつなぐ人の姿に、自分に足りない ものを感じ、心惹かれたのだと思います

都会にいるとどうしても頑張りすぎてしまって、疲れてしまう。地域での暮らしはそうした自分の行きすぎる成長志向を制御してくれて、バランスが取れると思いました。今後は、地域の価値をもっと多く人に共有するような生き方していきたいです。

鼠ヶ関の海を見ながら、優しそうに微笑む伊藤さん。
またいつでも鶴岡に来てくださいね。

ライター すずきまき

神奈川県横浜市生まれ、2020年春に山形県鶴岡市へIターン移住。同年、本格的に写真活動を始める。写真や文章を通じて、移住生活で変化していく視点や感情を表現。庄内で見つけた「光」を映す。

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