2019年春に移住した出雲祐二さん(66歳・東京都出身)・啓子さん(62歳・奈良県出身)。夫である祐二さんの定年退職を機にご夫婦で鶴岡にIターン。退職後は可能な限り仕事をしないと決めた祐二さん。一方で、学童保育のパートタイマーとして働く啓子さん。出雲さんご夫婦の生活とはどのようなものなのでしょうか。
-定年退職を機に移住を検討-
祐二さん「鶴岡に来る前は青森の大学で働いていたのですが、あと1年で定年退職というタイミングに、今後の住む場所について真剣に考えるようになりました。」
転勤族の父の元で小学生の間だけで6回の転校と転居を繰り返し、働くようになってからは6回職場を変えてきた祐二さん。これまで親やご自身の仕事に合わせて、受動的に住む場所を決めてきましたが、退職というライフイベントを前に、家族や仕事の都合に縛られることなく、はじめて主体的に自分で住む場所を考えるようになりました。
(熱心に話す祐二さん)
-落ち着いた雰囲気のある城下町鶴岡-
祐二さん「どこに住もうかと考えたときに、3つの理由から鶴岡が候補に上りました。1つ目は、コンパクトで静かな地域であること。2つ目は、住居費が比較的安価であること。3つ目は、これまで訪れて良いと思ったまちであることです。」
啓子さん「最終的にはまちの雰囲気に魅力を感じて鶴岡に決めました。酒田も鶴岡も良いところですが、鶴岡は昔からの城下町だったので、落ち着いた雰囲気がいいなと思いました。」
祐二さん「日本海側の地域は太平洋側に比べ過度な開発がなく、昔ながらの良さも残っている場所。その中でも庄内は、人間関係や仕事においてもギスギスしないゆるやかな過ごしやすさがあります。気候的にも、山形県の内陸盆地と比べると、暑すぎず雪も少なくて暮らしすい。また、市街地には公園もあれば、飲み屋もあって、過ごしやすくちょうど良い規模のまちです。好きな作家の藤沢周平のゆかりの地であることも縁を感じました。」
(出雲さん宅の本棚:藤沢周平の本、洋書、プログラミングの本などが並ぶ)
-作家・藤沢周平の小説に出てくるような暮らしに惹かれて-
祐二さん「昔からよく藤沢周平の本を読んでいて、作品の登場人物が不条理な運命に巻き込まれ、不本意な生き方を強いられながらも、その中で懸命に自分の誠実さと向き合い、静かに人生の地平が開かれて行く姿に惹かれました。そんな暮らしをしたいと思っていました。」
鶴岡出身の直木賞作家である藤沢周平が好きで、よく本を読んだという祐二さん。大学勤務時代に出張した高校訪問のときに、鶴岡を訪れたことがありました。その際、鶴岡に藤沢周平記念館があるということを知り、行きたかったのですが、時間の都合で訪問できなかったそうです。後ろ髪を引かれるように鶴岡を後にしたことが、その後祐二さんの中でどこか気になっていたのだとか。
-温泉地である山形とのゆかり・興味のあった伝統こけし
祐二さん「高校生のときに民俗学に興味を持ち、伝統こけしについて調べ、収集のため東北地方の温泉地を回りました。伝統こけしは師匠から弟子へと製法や模様が脈々と受け継がれますが、手仕事ですから同じものは二度とできません。またその姿は素朴ですが、同時にそこにはその土地の風土や歴史、そこに定住している人々の日々の労働や暮らし、さらに祈りまでも反映されています。故郷喪失者である私にはそうした大地に根づいた生活はひどく憧れた世界で、山形県や東北地方に昔から親和性はあったのではないかと思います。」
祐二さんは、東北地方の温泉地の湯治客のお土産として売られるようになったこけしに興味を持ち調べていました。温泉地である山形にもゆかりがあったのかもしれません。
(鶴岡に来てからも不自由は感じなかったと語る啓子さん)
-地域の方のあたたかい対応-
啓子さん「2018年9月に鶴岡の移住コーディネーターの方に相談をさせていただき、移住に関する情報をいただきながら、3軒くらい賃貸住宅の物件を見て回り決めました。移住を決めた後も、電気や水道の立ち合いなどで、数回鶴岡に足を運びましたが、道を尋ねたら地図をコピーして教えてくれたり、1つものを聞けばいろいろと情報をくださったり、『自分たちは受け入れられている』と鶴岡に来るたびに感じることができました。」
鶴岡への移住を検討しはじめてから、地元の人とも関わるようになったのですが、移住コーディネーターの方も、不動産屋の方も感じがよく、歓迎されていると感じたそうです。祐二さんは退職後働く予定がなかったのですが、そうしたシニア世代も歓迎してくれる鶴岡に良い印象を持ちました。
(コーヒー豆を挽くことから、ふたりの朝がはじまる)
-平日は主夫として啓子さんを支え、休みの日はふたりで一緒に過ごす暮らし-
祐二さん「6時頃に起きてまずコーヒーを入れます。朝ごはんの支度をして、8時頃に啓子さんと一緒に朝ごはんを食べます。午前中は自分の研究など机に向かって時間を過ごします。午後からは啓子さんがパートに出かけるので、その間にスーパーで買い物をしたり、掃除などの家事をしたり、夕食の準備をして、17時頃にはひとりで早めの夕食をとります。18時頃になると啓子さんがパートから帰ってくるので、その後はテレビを見たり、研究や読書をして24時頃には就寝します。」
平日の朝は一緒にご飯を食べて、夜はそれぞれの時間を大事にする。日曜日や祝日は、夫婦一緒に車でドライブしたり外にもよく出かけるそうですが、16時頃には夕食を済ませ、その後はふたりでゆったりとお酒や夜食を楽しむという、なんとも羨ましい理想的なセカンドライフを送る出雲さんご夫婦。
(市街地で快適な暮らしを送る出雲さん夫婦)
-これからの移住を考えている方へ-
祐二さん「移住はある程度思い切りという部分もあると思うので、場所を決めたら迷わないことが大事です。その方が、自分が選んだ選択肢を大切にしてやりたいことを自由に考えられると思います。」
啓子さん「私は性格上あれもこれもと迷ってしまうので、今回の移住に関しても祐二さんの一存で決めてもらいました。あまり欲を張らずに、これだけは譲れないというものを1つ決めて、まず住んでみることが大事なのかなと思います。」
親の介護や子育てなどがあれば、場所に縛られることもありますが、そうでなければまず住んでみる。決めてしまったら、その選択肢を大事にしていった方が生活も気持ちの面でも豊かに過ごせるのだそうです。また、自分の気持ちを伝えつつも、相手を尊重して夫婦で気持ちを合わせていく姿勢が大切だと言う啓子さん。
-これからはどんなことをしていきたいですか?-
祐二さん「せっかく日本海に面しているところに住んでいるので、庄内浜で釣りを楽しみたいですね。」
昨年の秋に加茂漁港の岸壁でアジ釣りを楽しんだという祐二さん。ここ鶴岡は四季の変化もはっきりしており、釣り好きの方も多く新たな趣味をはじめるにもぴったりの場所。また、こちらに来てからは、祐二さんが料理をするようになり、自分で料理したお浸しを肴に日本酒を飲むのが好きで、積極的に料理にも取り組むようになりました。鶴岡には7つも蔵元があり、日本酒好きの祐二さんにもたまらない地域なのではないでしょうか。余談になりますが、最近はストレスもなくなってきたからか、お酒も飲めなくなっているのだとか。これからも庄内の食文化を暮らしに取り入れながら、ご夫婦でゆったりと過ごしていかれることでしょう。
(文・写真 伊藤 秀和)