第8回目のレポートは、ご主人の祖父母がかつて住んでいた家をカフェにして、2014年に仙台市から移住された白幡さんご夫妻を紹介します。
鶴岡市三瀬の国道7号線から三瀬海岸へ入ってすぐの所にあるフィンランドをイメージしたカフェmeriがオープンしたのは、2014年8月。1歳の男の子のママでもあるオーナーの白幡由香さんは埼玉県出身。2008年に結婚し、昨年鶴岡に引っ越すまで、ご主人の幸太さんと二人で仙台市に暮らしていました。幸太さんは小学校3年生まで鶴岡市三瀬で育ち、その後、鶴岡市街地に引っ越し高校卒業を機に県外に就職しました。
三瀬に戻ろうと思い始めたきっかけは?
20代の頃から、漠然といつかは地元にもどりたいと思っていた幸太さん。しかし、具体的に行動に移すことはありませんでした。結婚した当初は仙台での暮らしが心地よかったため、その気持ちも薄れていました。しかし30代に入り、子どものことを考え始めたときに、子どもが生まれたら自分が育った三瀬で暮らしたいと考え、具体的に35歳までには戻ろうと考えるようになりました。
そこでまずインターネットで三瀬のことをいろいろ調べたところ、幸太さんが通っていた三瀬保育園の取組みを幼稚園のHPで知り、ボランティア募集があったので、早速2,3日休みをとり夫婦で参加してみることにしました。
三瀬保育園は、「森の保育園」とも呼ばれ自然保育を大切にしており、その日は、園児たちと一緒に山に登り、松ぼっくりを拾ったりしました。ただ付き添うだけのことでしたが、それでも二人は地元の人たちと「何か」繋がりを持ちたかった、つまり「人脈」と「コネ」を作りたかったと幸太さんはいいます。本間日出子園長先生は幸太さんが園児だった頃から園にいる先生で幸太さんのことを覚えていました。
その後も、二人は三瀬の孟宗まつりなど積極的に地域の行事に参加しました。幸太さんのことを知っている人から「久しぶり~」と声をかけてもらえるのがとても嬉しかったといいます。
カフェを開こうと思ったのはいつごろですか?
三瀬に帰ろうと思ったときに、仕事を探すのは難しいのかなと思ったことに加え、由香さんがずっと飲食店で働いていたので、カフェをやらせてあげたいなぁという気持ちがありました。昔、祖母がここで店をしていて、「人が集まる場所があったらいいな」と言っていたのを思い出し、自分もそういう場があったらいいのかなぁと思ったそうです。空き家だった祖母の家を、仙台にいるときから、知り合いの業者さんと話し合いながら内装のリフォームをしていきました。2014年3月に由香さんは、埼玉で里帰り出産をしました。それから2か月目の5月には子どもを三瀬保育園に入園させて、その後準備をして約3ヵ月でカフェをオープンしました。
幸太さんはいいます。「カフェの知名度がまだありませんが、知人が『今度PTAの集まりがあったら使ったらいいのでは?』といってくれたり、ランチに来てくれたり、三瀬の同じ世代の人たちが、がんばってPRしてくれていると感じ嬉しく思います。」
幸太さんのお仕事について教えてください。
「仙台にいるときは、広告業に携わっていて、こちらでも仕事を引き継いでやろうと思い、知人を通していろいろ仕事を探してみました。現在は縁あった農業法人に係わらせてもらっています」と幸太さん。
「自分のまわりには、農業に係わるところで働きつつ、いつか農業をやりたいと思っている人は意外と多いんですよ。30~40代の独身男性で真剣に農業をやろうとしている人がまわりに多いのです。しかし、農地取得について、年老いて昔田んぼをやっていたが、今はできないという人の耕作放棄地は沢山あると聞きますが、いざ借りたいと思っても貸してもらえる耕地はなかなかないのです。結局、人づて、人の繋がりでその人と仲良くしないと貸してもらえないので、そこをうまくマッチングする方法があればと思います。地域のことは地域の人から情報を得て、もっと効率よく面談とかしてどんどん繋いでもらえたらと思います。そうしたらもっと新規就農したい人たちが増えるかもしれません。後継者不足といっていますが、そういう人たちに、『ここに農地あるよ、補助金これだけでるよ』など、どんどん教えてあげることができたら、後継者不足は解消されるのではと思います。知り合いには、農業をやりたくてもやれずなかなか踏み切れず、それで仕方なく、県外の農業法人で働いている人もいます。」
「インターネットを活用して発信すれば、農業をやってる人同士で繋がっているので拡散してどんどん広がると思います。自分のまわりには真剣に農業をやっている人たちがいるので、そういう人たちを活かせてあげたらいいなと思います。」
移住して感じたことや困ったこと。
「やっぱり経済的なことですね。仕事が本当に少ないと思います。これから先の自分の仕事のビジョンについては現在葛藤中です」と切実な様子。
「自分はあまり何も考えない人なので、こちらの気候についても心配していなかったのですが、冬の風が半端なくひどくてダメージが大きかったです。仙台辺りだと、気候が関東とあまり変わりなかったのですが、日本海側はホント凄いのですね。移住を考える人は絶対、冬を体験すべきです」と苦笑しながら由香さん。
子育てのことについて聞かせてください。
由香さんはいいます。「子どもは三瀬保育園に毎日送っています。この保育園は、子どもが自分で考え、自分で動けるよう、園庭づくりにも力を入れています。先日も三段砂場をつくるにあたり、砂場に丸太や砂を入れる作業がありました。驚いたのは園児の父兄だけでなく地域の人も一緒に参加してくれるんです。地域の人がこんなに集まる保育園はそうみたことがないと言われています。」
三瀬保育園には、現在地域外からの園児が半分もきており、由香さんのカフェには、一日体験を終えた後のママさんたちが立ち寄り、いろいろな話をしていかれるとか。近くにこんないい保育園があっていいねと言われることもあるそうです。地域外から通っていた園児が卒園後も三瀬での暮らしを望み、家族で移り住んだという話もあったそうです。
本間日出子園長はいいます。「園から歩いていける場所には、0歳児も遊べる森があったり、日本海の荒波に削られた丸い石ころの海岸があったり、竹の炭焼き小屋があったり、子どもだけでなく大人にも魅力的な場所が沢山あります。そしてなにより、いつも地元の人が子たちを見守ってくれています。春は野山の花に囲まれ、夏は海水浴、冬にはスキーなど季節ごとの楽しみも満載です。また、食に恵まれていて、朝近くの海で獲れたお魚を格安で仕入れることができ、園児たちはまるまる大きな魚を見たり、触ったりできるんです。料理する人は鱗からとらなきゃいけないから大変ですが(笑)感じる力を育てることができると思います。「今、園では園庭研究会を立ち上げ、森や海では得られない力を養えるようにしています。丸太の橋を渡ることで、危険察知・回避能力を養い自分で考え、自分で動く子どもに育つような環境づくりをしています。子どもを信じて見守る保育を目指しています。」
三瀬保育園のHPはこちらから・・・
移住に際し、どんなサポートがあったらいいと思いますか?
「結局、移住で大切なのは、仕事と住むところだと思います。そこがはっきりしないとそんなに本当に移住に対し腰をあげる気にはならないと思います。仕事が決まるのが先か、引っ越すのが先かということになると思いますが、仕事を見つけるためには、休みをとり、お金と時間を使い鶴岡まで来て、面接をしなくてはいけません。その回数が増えるほど結構な負担になるので、そこが改善されれば帰るきっかけがもっと増えるのではないかと思います。まわりの話を聞くと、企業側でも人材を求めているようですが、そういった会社が何社かまとまってきて、仙台や東京などでUターン者向けのガイダンスを行い、そういった情報を発信してくれれば、Uターン希望者は、一日とか二日休みをとらなくても、半日休みで済む訳じゃないですか。そうしたらもっと気軽に地元の企業との接点ができるのではないかと思うのです。」
「実家がこちらにある場合は、仕事を辞めて実家で暮らしながら新しい仕事を探すことができると思いますが、こちらに拠点となる実家があったとしても、子どもがいる人や嫁が県外の人は、いきなり同居するのも難しいと思います。とりあえず引っ越してから職を探そうにも、無職の状態で帰ってくるのは、すごく不安だと思う。まして家族もいたら。こちらに拠点がない場合は、さらに交通費や滞在費もかかり負担が大きくなるんですよね。そういう意味でも、Uターンを決めた人に、定住促進住宅などある一定の期間家賃を半額にするとか、安く住めますという補助があればいいですね。お試し体験施設とは違い、本当に来て、拠点をこちらに移すための準備期間としての住宅に対してです。」
実際にUターンを考えている人へのメッセージ
「子育てするには、ここの環境はいいと思います。医療も今無料だし。ただ、生活するのにいったいいくらかかるのだろうと思います。田舎は安い安いといいますが、そんなに変わらないと思います。田舎は車がないと暮らせないし結局、車を2台買わないといけません。もちろん維持費もかかります。また下水道がきていなくて、汲み取りなので1ヵ月あたり8,000円はかかります。仙台では都市ガスでしたが、ここはプロパンのためガス代も高くなりました。多分仙台での暮らしの方が生活費は今よりかかっていないと思います。生活費は前より高くなり、収入は前より減っているので、生活が苦しいのが現実です。」
「このことは、もっと移住前に緻密に計算しておけばよかったのかもしれないですが、暮らしてみるまでわからなかったことです。こっちに実家があって、それこそ3世代で暮らしている人だったらゆとりがあるかもしれませんが、自分たちみたいに独立して暮らしている人たちは結構お金がかかると思います。」
「実際に住んだらどのくらいお金がかかるか。どの位の収入があるのか、どの位で自分の暮らしが成り立つのか、収入と生活費のシミュレーションが必要だと思います。平均でこのくらいかかりますよと教えてくれる機関があって相談できれば、またUターン考える人にとっては頼りのなるのではと思います。あまり行政に頼りきるのもよくないけど、自分で何とかしていかなきゃいけないという気持ちを持ちつつ、プラス、そういうサポートもあればいいなと思います。」
「私たちのインタビューを載せて参考になるのかなぁ」と言いながらも、白幡さんご夫妻の生の声からいろいろな課題をいただきました。
(平成27年8月30日インタビュー 文・写真 俵谷敦子)
コメント
まずは、鶴岡にお帰りなさい。
本当に鶴岡の冬は風・雪・吹雪との戦いがあります。そして働く場も問題がありますね。
でも冬の日本海は厳しいですが美しいと僕は思います。
そして本当に珍しく大きな災害が少ない地域であるとも思います。
加えて海の幸・川の幸・自然が与えてくれる幸にも恵まれている鶴岡です。
こんどお店に寄らせていただきたいと思います。
もうすぐ冬がやって来ますが、毎日を大切に楽しく過ごしてください。