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No.53 季節の色に染まる、小さな村大鳥の暮らし。

鶴岡市に移住した人々の暮らしを、体験談とともに紹介する移住インタビュー。
今回は、鶴岡市の自然あふれる小さな村 大鳥地域に移住した伊藤夫妻にお話しを伺いました。

プロフィール

伊藤 卓朗(いとう たくろう)さん

1978年、山形県鶴岡市に生まれる。鶴岡高専を卒業後、県外の大学へ進学。修士博士過程を修了後、鶴岡に戻り慶應義塾大学先端生命科学研究所の研究者となる。

以後、研究と教育に携わり、2020年2月に”NPOやまいろ”を設立。代表理事として観光地のコンサルティングや、芸術系イベントのプロデュースなど、地域の資源と伝統・文化を守る活動の輪を広げると共に、現在は母校である鶴岡高専で教鞭をとっている。

伊藤 桃与(いとう ももよ)さん

1989年、山梨県に生まれる。高校を卒業後、作家としての活動をスタート。武蔵野美術大学在学中に、独自の技法”映像絵画”を確立し、映像と絵画の融合により森の緑や、土・水・光・影、時間や生命を形にするアーティスト。

2019年5月に鶴岡市にIターン移住。アーティスト“桃与”として新たな表現を追究するとともに、卓朗さんとNPOやまいろを設立し、芸術分野のワークショップや映像制作などを担当している。

東京で出会い、鶴岡へ。鶴岡市街地から車で約40分の大鳥で、新生活のはじまり。

Q 鶴岡市に移住するきっかけになった出来事を教えてください。

卓朗さん

「大学院卒業後は鶴岡に戻って10年間、慶應義塾大学で研究をしました。その後、内閣府のプロジェクトで3年間東京に行くことになりましたが、鶴岡が大好きなので、もともとプロジェクトが終わったら、鶴岡に帰るつもりでした。」

桃与さん

「私は大学生の時から、10年ほど都内で暮らしてきました。作品の制作と並行して映像の仕事もしていたのですが、だんだん制作と生活のバランスを取るのが難しくなって、とにかく東京を出てどこかへ移住しようと思っていました。当初は島に移住したいと考えて、海の見える場所を探していたのですが、卓朗さんに出会って鶴岡の、それも山奥に来ることになりました。」

卓朗さん

「ふたりとも日本酒好きという共通点があって、日本酒バーのイベントで仏像展を見に行った時に出会いました。その流れで”大山新酒・酒蔵まつり”を紹介したところ、桃ちゃんも一緒に参加する事になりました。」

桃与さん

「なんて素晴らしいお祭りなんだ!と感動しました。ちょうど日本酒にはまり始めていたタイミングで、わたしの地元の山梨はお酒といえばワインなので地区全体が日本酒愛に包まれる新酒まつりはほんとうに面白かったです。」

卓朗さん

「はじめての鶴岡が新酒まつりで、それに惚れ込んでくれたので、その後、結婚して2019年の5月にふたりで戻って来るのもスムーズでした。」

Q 鶴岡の市街地で育った卓朗さん。なぜ「大鳥」に住むことを決めたのでしょうか?

卓朗さん

「NPOを立ち上げるというのは以前から決めていたので、鶴岡に戻ったら、空き工場のような場所で始めようと思っていました。でも、3年間都会に住んで疲れたのか、市街地では物足りなくなって、もっといい場所はないかなと考えていました。 大鳥については、以前から大鳥池のタキタロウ調査や、大鳥音楽祭を手伝ったりしていたのでよく知っていました。子供の頃にも、自然の家に何度も来ていましたし。自然豊かな大鳥に惹かれて物件を探し始めたら、すぐに今の家を紹介してもらえました。」

桃与さん

卓朗さんに、『大鳥にいい場所があるよ』と連れて来てもらって、はじめてこの家を見させてもらった時、2階の広いスペースで絵を描くイメージがすぐに浮かびました。
都内ではアトリエを借りていた時もあるし、居住スペースにビニールシートを敷いて、絵を描くような生活もしていました。わたしの場合は作品が大きいので、この広さなら描きやすいなと思いました。」

卓朗さん

「僕たちにとって全てがベストタイミングで、大鳥での生活が始まりました。」

Q 移住の決め手になったことはありますか?

桃与さん

「卓朗さんに、なんで大鳥に住みたいの?と聞いた時に、『40代は美しいものに囲まれて生活をしたい』と言っていて、それが、卓朗さんにとっては大鳥の自然の景色だったのだと思います。確かに、都会では日常を綺麗だねっていいながら生活するは難しいので、生活に美しいものが落ちているというのは、すごく豊かだなと思いました。この感覚が一番、しっくりきました。」

ビールの材料になるホップの毬花。庭先で咲いていました。

卓朗さん

「実際に住んでみても、大鳥での生活は毎日、刺激的です。それも、作られた刺激ではなく自然のままの美しさからの刺激にあふれているのです。」

桃与さん

「わたしの作品は自然をモチーフにしているので、その点でも相性が良いと思いました。」

生活の中に季節の変わり目が落ちている。自然とともに歩み、地のものを食す日々の暮らし。

Q 日々の暮らしはいかがですか?

卓朗さん

「目から入ってくる情報が美しいのは勿論ですが、風を感じたり、季節を感じたり、匂いを感じたりする空間の美しさは、大鳥がちょうど良いと思います。」

桃与さん

「食事の面でも、山菜をはじめ、きのこや野菜も、大鳥で採れたものを食べて、大鳥の水を飲んで。そういうのは大きな価値があることだと思います。季節の変わり目を生活の中で感じることができて、それを幸せだと思えるのが良いです。

逆に慣れるまで大変だったのは、地域の人たちとのコミュニケーションの部分でした。まず訛りや方言が難しくて、その上ご高齢の方が多いので、聞き聞き取りづらい部分もあり、同意を求められているのか、質問されているのか、どう答えていいのか分からなかったです(笑) それでも繰り返しているうちに徐々に分かるようになりましたが。
大鳥はかつて鉱山があった影響で、これまでにも色々な地域から人が来ていて、価値観が広い。移住者を受け入れてくれる懐の深さを感じました。」

卓朗さん

「以前から、タキタロウ調査や大鳥音楽祭で大鳥に通っていいましたが、住んでみるとまた違いますね。大鳥は最辺境でありながら、刺激がたくさんあって、人は協力的であたたかく、実は最先端の地なのだと感じています。」

桃与さん

「大鳥の一番素晴らしいところは 、もともと大鳥に住んでいる人たちが、大鳥のことを好きなところです。ここに住んでいる人が土地に愛着を持っていて、移住者のわたしたちも好きで選んできたから、お互いに納得できるし、村の人々も明るく迎え入れてくれるのだと思います。」

引っ越す前に心がけたこと。情報収集は温泉で——!?

Q 今、移住を検討中の方へアドバイスがあれば教えてください。

卓朗さん

「僕たちの場合は、大鳥に引っ越す前の、家の手入れをしに通っている時期から、ちょこちょこ集落の集まりに顔を出すようにしていました。急に引っ越して来たという印象ではなく、あの家誰か入るみたいだよ、という段階から地域の人に少しずつ知ってもらえたので、馴染みやすかったです。」

桃与さん

「私もそこは意識していました。なるべく地域の人たちに顔を見せる。まだ方言も分からなくて、何を言っているのか聞き取れない時にも、機会を見つけては話しをしていました。一軒一軒、挨拶にも行きました。」

卓朗さん

「お互いに事前の情報があった方が、集落に入りやすいと思います。鶴岡は集落の機能が強い地域ですし。」

桃与さん

「地域の情報収集も大切で、移住先を探している段階なら、普段関わりの無い人に話しを聞くのが良いと思います。わたしは“かたくり温泉ぼんぼ”でおばあちゃんたちに大鳥のことを聞いたりしていました。結局、言っていることの半分くらいしか聞き取れないのですが(笑) でも、『大鳥はいいところだよ』と言うのを聞いて、ポジティブな印象を受けました。お風呂は結構コミュニケーション取りやすかったですね。情報収集は、お風呂場に行くべし。」

Q 今後、鶴岡でやってみたいことはありますか?

桃与さん

「鶴岡に来てから、一番興味があるのが黒川能や湯田川温泉神楽などの伝統芸能なので、積極的に観ていて、少しずつ記録もさせてもらっています。あとは地域の山菜の処理の仕方とか、自分が経験しないと伝わっていかないものは、ちゃんと記録に残していきたいなと思っています。

卓朗さん

「食の豊富さや在来作物は最近取り上げられるようになってきましたが、鶴岡にはまだまだ素晴らしい伝統や文化がたくさんあります。しかし、地元の人にとっては当たり前すぎて気付きにくいものです。そうしたものを現代の感覚で解釈して、言葉にしていく、映像にしていく、伝えていく。そういう活動を続けていきたいです。」

大自然の中で暮らすお二人の笑顔は、生き生きと輝いて見えました。

お話しを聞かせていただき、ありがとうございました!

ライター すずきまき

神奈川県横浜市生まれ、2020年春に山形県鶴岡市へIターン移住。同年、本格的に写真活動を始める。写真や文章を通じて、移住生活で変化していく視点や感情を表現。庄内で見つけた「光」を映す。


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